遺言がないと困る場合は多いのですが、本当に困る場合はどんな場合でしょうか。

(1)夫婦間に子どもがいない場合
①夫婦の間に子どもはいない。
②夫の両親は既に亡くなっている。
③夫に弟がいる。

ここで本人が亡くなると、法定相続人は、妻と弟となります。
遺言が無いと、妻は財産の3/4を相続しますが、夫の弟が残り1/4を相続することになります。例えば、遺産が1億円だった場合、妻は7500万円を相続するものの、残り2500万円は夫の弟が相続することになります。妻が、夫の弟と交流があれば納得もできるのでしょうが、交流が全くないような場合は複雑な気持ちになるかもしれません。

妻に全財産を相続させると遺言すれば、全財産を妻が相続できます。兄弟姉妹には遺留分が認められていないので、遺留分侵害請求をされることもありません。

(2)再婚して先妻の子と後妻がいる場合
①先妻とは10年前に離婚した。
②先妻との間の子として、2人の子どもがおり、離婚後にきちんと養育費は払ってきて、すでに2人とも成人している。
③5年前に現在の妻と再婚した。
④再婚した妻との間に、3歳の子どもがいる。

ここで本人が亡くなると、離婚しているので先妻に対する相続はないのですが、先妻との間の子どもは本人の子であるので相続の権利があります。このため、現在の妻は1/2を相続し、先妻との間の子2人と、再婚した妻との間の子は、それぞれ1/6ずつ相続します。

6000万円の遺産の場合だと、再婚した妻は3000万円、子どもたちはぞれ1000万円ずつとなります。

まだ幼い子どもの将来のことを考え、遺言で再婚した妻との間の子どもに多くを相続させることも可能です。ただし、先妻との間の子の遺留分については配慮する必要があります。

(3)長男の妻に財産を分けてやりたい場合
①妻は既に亡くなっている。
②長男と長女がいる。
③長男には妻がおり、その妻が献身的に尽くしてくれている。
④長男は3年前に亡くなった。
⑤長男とその妻との間に子どもはいない。

この場合、本人が亡くなると、遺産はすべて長女が相続します。献身的に尽くしてくれた長男の妻は、たとえ、特別寄与者による特別寄与料の請求をしたとしても、その金額は十分とは言えないので、遺言でもって、長男の妻にある程度の財産を遺贈することがいいのではないでしょうか。ここでも遺留分について配慮する必要はあります。

(4)内縁の妻がいる場合
①内縁の妻がいる。
②子どもはいない。
③妹がいる。

この場合、本人が亡くなると、内縁の妻には相続権はありませんので、遺言がなければ、財産はすべて妹が相続することになります。妻ならすべての財産を相続することができたのですが。

その内縁の妻に全財産を包括して遺贈すると遺言すれば、全財産を内縁の妻が相続できます。兄弟姉妹には遺留分が認められていないので、遺留分侵害請求をされることもありません。

(5)事業を承継させたい場合
事業継承を円滑に行うためには、後継者に経営に必要な株式などの資産を集中させることが必要となってきます。そのため、例えば、長男と次男がいて、長男に事業を相続させる場合には、遺言が不可欠となってきます。もし遺言が無い場合には、民法が定める法定相続分に従って相続が行われることになり、事業がうまく継承できなくなる可能性がでてきます。

(6)各人ごとに相続財産を特定して相続させたい場合
各相続人に相続財産を特定して相続させたい場合には、遺言が必要となってきます。長男にはこの土地と建物、次男にはこの土地と建物という具合に特定して相続させることができます。

(7)相続人がいない場合
相続人がいない場合は、遺言がないと遺産は国庫に帰属してしまいます。相続人がいない場合には、遺言を作成して、遠い親戚、お世話になった人、お世話になった大学や団体などに遺贈するといったことが考えられます。

(8)実は、どのような家庭でも遺言はあったほうがいい
遺言が無い場合は、遺産分割協議となります。ふだんは仲のいい兄弟姉妹であっても、遺産をめぐる話し合いとなると、言いたくないことも言わざるをえず、場合によっては、弁護士をたてて協議に臨むという場合もあります。

そうなると、兄弟姉妹の関係は悪化してしまうことでしょう。父親や母親が元気だったときは、兄弟姉妹がまとまっていたのが、親が亡くなってしまったとたんに、家族がバラバラになってしまうのは何とも悲しいことです。そうならないように、ぜひ遺言は作成すべきだと思います。