自筆証書遺言書保管制度のメリット

遺言書を自宅のどこかに保管しておくこともできますが、さらに安心感を高めるために自筆証書遺言書保管制度というのがあります。これによって、遺言書を紛失して、見つからないといったリスクを減らすことができます。

また、相続人の誰かが、自分にとって不利な内容となっているその遺言書を破棄したり、改ざんしたり、隠匿してしまうといったことを防ぐことができます。さらにメリットとしては、相続開始後に家庭裁判所における検認という手続きが不要となることです。相続人の負担を減らすことにつながります。

ただし、遺言の内容について法務局がチェックするということはしないので、遺言書の有効性が保証されるものではないことに注意が必要です。

遺言書の様式等

自筆証書遺言書保管制度で保管する遺言書を作成する場合、まず自筆証書遺言の要件を満たす必要があります。それは以下のとおりです。

【自筆証書遺言の要件】

①遺言書の全文、遺言の作成日付及び遺言者氏名を、必ず遺言者が自書し、押印します。その際、遺言の作成日付は、日付が特定できるよう正確に記載します。

②財産目録は、自書でなく、パソコンを利用したり、不動産(土地・建物)の登記事項証明書や通帳のコピー等の資料を添付する方法で作成することができますが、その場合は、その目録の全てのページに署名押印が必要です。

③書き間違った場合の訂正や、内容を書き足したいときの追加は、その場所が分かるように示した上で、訂正又は追加した旨を付記して署名し、訂正又は追加した箇所に押印します。


上記の自筆証書遺言の決まりごとに加えて、法務局では次のように自筆証書遺言書保管制度上の様式等を定めています。

【自筆証書遺言書保管制度で求められる様式等】

①用紙について
●サイズ:A4サイズ
●模様等:記載した文字が読みづらくなるような模様や彩色がないもの。一般的な罫線は問題ない。無地の用紙も、もちろん使用可能。
●余白:必ず、最低限、上部5ミリメートル、下部10ミリメートル、左20ミリメートル、右5ミリメートルの余白をそれぞれ確保する。
(注)余白が確保されていない場合や、余白に1文字でも何らかの文字等がはみ出してしまっている場合は、書き直さないと預かってもらえない。

②片面のみに記載する。
用紙の両面に記載して作成された遺言書は預かってもらえない。財産目録も同様。

③各ページにページ番号を記載する。ページ番号も必ず余白内に書く。
(例)1/2、2/2(総ページ数も分かるように記載する。)

④複数ページある場合でも、ホチキス等で綴じない。
スキャナで遺言書を読み取るため、全てのページをバラバラのまま提出する(封筒も不要。)。

【遺言書の記載上の留意事項】

①筆記具について
遺言書は、長期間保存するので、消えるインク等は使用せず、ボールペンや万年筆などの消えにくい筆記具を使用する。

②遺言者の氏名は、ペンネーム等ではなく、戸籍どおりの氏名(外国籍の方は公的書類記載のとおり)を記載する。
※民法上は、本人を特定できればペンネームでも問題ないとされているが、本制度では、遺言書の保管の申請時に提出する添付資料等で、申請人である遺言者本人の氏名を確認した上で預かるため、ペンネーム等の公的資料で確認することできない表記である場合は預かることができない。

遺言書の保管申請

遺言者が、遺言書保管所(法務局)に、自分の自筆証書遺言書の保管を申請します。その申請ができるのは、遺言者本人だけです。代理人による申請や郵送による申請はできません。申請の手順は次のとおりとなります。

(1)自筆証書遺言に係る遺言書を作成する


上記で説明したように、自筆証書遺言書の要件や様式等を守りながら自筆証書遺言書を作成します。

(2)保管の申請をする遺言書保管所(法務局)を決める

保管を申請する遺言書保管所(法務局)を決めます。次のいずれかの遺言書保管所の中から選択して行います。
●遺言者の住所地を管轄する遺言書保管所
●遺言者の本籍地を管轄する遺言書保管所
●遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所

ただし、2通目以降、追加で保管の申請をする場合は、最初に保管の申請をした遺言書保管所に対してしか行うことができません。遺言保管所の管轄(担当する地域)については、法務省のホームページで確認できます。

(3)遺言書の保管申請書を作成する

保管申請書に必要事項を記入します。保管申請書の様式は、法務局のホームページからダウンロードできます。そこには、記載例のほか、記入上の注意事項も掲載されています。法務局窓口でも用紙を入手できます。

(遺言書の保管申請書の記載例、法務省のHPから)

(4)保管の申請の予約をする

法務局手続案内予約サービスの専用HPで予約をします。電話でも予約は可能です。

(5)遺言書保管所(法務局)にて、保管の申請をする

予約した日時に、遺言者本人が遺言書保管所へ行きます。持参する書類は以下のとおりです。
①遺言書
②保管申請書(あらかじめ作成したもの)
③添付書類
住民票の写し等(本籍及び筆頭者の記載入りであって、マイナンバーや住民票コードの記載のないもの)
●(遺言書を外国語で作成した場合)遺言書の日本語による翻訳文
顔写真付きの官公署から発行された身分証明書(運転免許証、マイナンバーカード等)
手数料(遺言書1通につき、3900円。収入印紙で納付する。収入印紙は遺言書保管所の庁舎内の収入印紙の販売窓口又は郵便局等で販売している。)
(手続当日、担当者からの指示があったら、手数料納付用紙に貼付して納める。)

(6)保管証を受け取る

特に問題がなければ、「保管証」をもらうことができます。以下は保管証のイメージです。

(法務省のHPから)

遺言情報証明書、遺言書保管事実証明書の交付申請

遺言者の死亡後、その相続人等(相続人、受遺者、遺言執行者等)は、当該遺言者の遺言書について、①遺言書情報証明書、②遺言書保管事実証明書の2種類の証明書の交付の請求をすることができます。このほか、遺言書の閲覧の請求を行うこともできます。

遺言書情報証明書は、遺言者の氏名、出生の年月日、住所及び本籍(又は国籍等)に加え、目録を含む遺言書の画像情報が表示されるものであり、遺言書の内容の証明書となるものです。この証明書を取得することにより、遺言書の内容を確認することができます。相続登記手続等や銀行における相続手続について、遺言書情報証明書を使用することができます。

遺言書保管事実証明書は、生前、被相続人が遺言書を作成したかどうかを一切知らない相続人が、遺言書保管所に同人の遺言書が保管されていないか、確認するなどの目的で、取得されたりします。

交付申請の方法は、法務省のホームページで詳しく紹介されています。