一番確実な遺言の方法は、公正証書遺言となります。公証人が専門的な知識をもって相談に応じて作成してもらえます。しかし、ある程度の金銭的な支出は伴います。そこで、自分で遺言を作成してみようと思われる方もいると思います。

まだまだ若いので、本格的に公正証書遺言を作成する気が起きないが、万が一のことを考えて、とりあえず自筆証書遺言だけでも作成しておこうと思っている人もいると思います。自筆証書遺言は、作成方法さえきちんとおさえておけば、手軽に作成することができます。以下はポイントになります。

財産を把握する

(1)不動産(土地や建物)
 家に届いている「固定資産税納税通知書」を見ます。あるいは、市区町村の役場で「固定資産評価証明書」を入手します。
 土地の場合は、所在、地番、地目、地積を確認します。
 建物の場合は、所在、家屋番号、種類、構造、床面積を確認します。

(2)預貯金
 通帳を用意して、金融機関名、支店名、普通預金や定期預金などの種類、口座番号を確認します。

(3)有価証券
 国債、社債、株式などについて、確認します。

(4)動産
 自働車の場合は、車検証で、車名、登録番号、車体番号などを確認します。

(5)その他の財産

財産目録の作成

上で確認した内容をパソコンで表などにしてまとめ、印刷します。自筆で名前を記し、押印します(2枚以上になる場合は、それぞれに自筆で名前を書き、押印することを忘れないようにします)。この署名、押印がないと無効となってしまいます。

不動産(土地・建物)の登記事項証明書や通帳のコピー等の資料を添付する方法で作成することもできますが、その場合でも各ページに署名、押印が必要です。

相続内容の決定

誰に、何を、どれくらい相続させるかを決めます。すなわち、配偶者や子どもたちに、土地、建物、預貯金などをどう相続させるのかを決めます。あるいは家族以外の人などに贈与することもあり得ます。

なお、相続の際に、家族や親族の間で、もめごとにならないように十分に考えることが大切です(法定相続人や法定相続の割合について意識します)。極端な相続割合にすると遺留分を侵害することになるので、そこも注意する必要があります。

遺言書の作成

上で決めた相続内容をまずパソコンで作成してみます。その文章について問題がないようならば、今度はそれをA4の紙に、自筆で書きます。以下は、「自筆証書遺言の要件」ですが、これに従って遺言を作成します。

自筆証書遺言の要件】
①遺言書の全文、遺言の作成日付及び遺言者氏名を、必ず遺言者が自書し、押印します。その際、遺言の作成日付は、日付が特定できるよう正確に記載します。
よって、本文をパソコンでつくって手書きにしなかった場合は、無効になります。付言事項もパソコンで作成してはいけません。鉛筆で書くのではなく、ボールペン等の容易に消えない筆記具を使って作成します。

日付がない場合も無効になります。日付は、令和5年8月19日などとなります。令和5年8月吉日だと無効になります。氏名を自書しない場合、押印がない場合も無効になります。押印は認印でも問題ありませんが、実印にしましょう。

②財産目録は、自書でなく、パソコンを利用したり、不動産(土地・建物)の登記事項証明書や通帳のコピー等の資料を添付する方法で作成することができますが、その場合は、その目録の全てのページに署名押印が必要です
忘れがちですが、目録全てのページに署名して押印しましょう。

③書き間違った場合の訂正や、内容を書き足したいときの追加は、その場所が分かるように示した上で、訂正又は追加した旨を付記して署名し、訂正又は追加した箇所に押印します。
訂正する場合は、従前の記載に二重線を施し、押印します。修正テープや修正インクで修正することはできません。忘れがちですが、「訂正又は追加した旨」をきちんと書くことが必要です。下の本文の例だと「上記三中、二字削除二字追加」の部分です。訂正箇所への押印も忘れずにしましょう。

法務省で遺言書訂正の見本を示しています。このように訂正すればよいでしょうが、訂正の仕方を間違えてしまうリスクを考えると、もう一度自筆で書き直すほうがよいでしょう

【参考】
民法
第968条
 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない

共同遺言の禁止

2人以上で、共同で遺言書を作成することは禁止されています。例えば、夫婦で一緒に作成することなどです。それぞれで独立して作成する必要があります。

よって、夫婦で話し合うのはいいのですが、それをもとに夫婦で共同して一つの遺言書を作成したとしたら、それは無効になってしまいます。

【参考】
民法
第975条
 遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない

遺言書の例

遺言書

1 遺言者は、その所有する別紙目録第1記載の不動産を、長男〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。

2.遺言者は、その所有する別紙目録第2記載の預貯金を、次男〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。(注:相続人以外にも「相続」させることができます。その場合には「相続させる」ではなく、「遺贈する」と記載します。)

3.遺言者は、上記1及び2の財産以外のその他すべての財産を、長男〇〇〇〇に相続させる。

(注:祭祀主宰者を指定することもできます。)
4.遺言者は、祖先の祭祀を主宰すべきものとして、遺言者の長男〇〇〇〇を指定する。

(注:遺言執行者を指定することもできます。)
5.遺言者は、本遺言の遺言執行者として、下記の者を指定する。遺言執行者は、本遺言に基づく不動産に関する登記手続、遺言者名義の預貯金など金融資産の名義変更、解約及び払戻し等をする権限ならびに遺言者の貸金庫の開閉、内容物の引取り及び貸金庫契約の解除等本遺言を執行するのに必要な一切の権限を有する。

       住  所 東京都〇〇市〇〇町〇丁目〇〇番〇〇号
       職  業 〇〇〇〇
       氏  名 〇〇〇〇
       生年月日 昭和○○年〇〇月〇〇日

              令和〇年〇月〇日

                 住所 東京都〇〇市〇〇町〇〇番地

                         (氏   名)   印

                     財産目録

第1 不動産
1 土地
 所在 〇〇市〇〇町〇丁目
 地番 〇〇番〇〇
 地積 〇〇平方メートル

2 建物
 所在 〇〇市〇〇町〇〇番地〇〇
 家屋番号 〇〇番〇〇
 種類 居宅
 構造 〇〇〇〇
 床面積 1階 〇〇平方メートル
     2階 〇〇平方メートル

第2 預貯金
1 〇〇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇〇〇〇

2 ゆうちょ銀行 通常貯金 記号〇〇〇〇〇 番号〇〇〇〇〇〇〇〇

                        (氏   名)  印

実際には、より複雑なケースがあると思います。その際は、専門家のアドバイスを得るといいと思います。

封筒に入れる場合、入れない場合

遺言書が完成したら封筒に入れて保管したほうが望ましいと言えます。その理由は、遺言書を見つけた人がいたとして、その内容が自分に不利な場合、こっそり破棄してしまったり、書き換えたり、隠したりする可能性があるからです。

封筒に入れたら、それが遺言書であることを分からせるために、封筒の表面に「遺言書」あるいは「遺言書在中」などと書きます。遺言書であることを知らせる意味があります。



裏面には、開封されないようにするために「開封してはいけない。開封前に必ず家庭裁判所で検認を受けるように。」などと記載します。「検認」を受けずに遺言書を開封してしまうとと違法行為になってしまいますが、そのような法律上のルールを知らない人は多いと思いますので、注意を促す必要があります。

封筒に日付、署名押印もしましょう。押印は遺言書で使った印鑑にします。さらに、封筒をのりづけした後、押印して、封印も行います。

ただし、「自筆証書遺言書保管制度」を利用して法務局に遺言書を預ける場合は、封筒に入れる必要はありません。法務局でその遺言書についてスキャナーで読み取る必要があるからです。そのため、遺言書は複数枚であってもホチキスなどでとじないで法務局に持っていくことになります。封筒も不要です。