遺言自由の原則

遺言は、誰にも制約を受けることなく、自由に作成することができます。自分の考えで、一方的に意思表示することができます。自分の財産だから、当然といえば当然と言えるでしょう。もちろん、遺言を作成するのも、作成しないのも自由です。

一度遺言を作成すると、それで永久に決定されてしまうと思う人がいるかもしれませんが、いったん作成したものを変更したり、撤回するのも自由です。いったん遺言を作成したが、時間がたつとととも考えが変わることもあります。そのときには、変更すればよいということです。

【参考】
民法
第961条 15歳
に達した者は、遺言をすることができる。

第963条 遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない

第1022条 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部撤回することができる

遺言における制限

しかし何でも自由に遺言を作成してよいかというと、必ずしもそうでもなく、「遺言能力による制限」「遺留分による制限」「公序良俗による制限」などがあります。これは遺言作成の大前提になります。

(1)遺言能力による制限
自分が作成する遺言の内容について、それがどのような結果や影響を及ぼすことになるか、きちんと判断できないといけないということになります。認知症になっていると、遺言作成時の状況にもよりますが、遺言能力がないと判断される可能性もあります。できれば、認知症になる前に遺言を作成したいものです。

(2)遺留分による制限
相続人(兄弟姉妹は除く)のために残さなくてはならない財産として「遺留分」というものがあります。これを侵害すると、遺留分侵害額請求がなされる可能性があります。すなわち、ある人に極端に多くの相続をさせるような遺言にすると、不公平な扱いを受けた相続人から、遺産分割侵害請求を起こされる可能性が出てくるということになります。

なお、遺留分を侵害している遺言であっても法的要件を備えていれば遺言自体は有効となります。

【参考】
民法
第1042条
 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第1項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 3分の1
二 前号に掲げる場合以外の場合 2分の1
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第900条及び第901条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。

第1046条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
2 遺留分侵害額は、第1042条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。
一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額
二 第900条から第902条まで、第903条及び第904条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第899条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第3項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額

(3)公序良俗による制限
公序良俗に反する遺言は無効となりますので、注意が必要です。常識的な遺言を作成するにあたっては、まずそのようなことは起きないと思われます。

【参考】
民法
第90条 公の秩序
又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

遺言事項

法的に有効な遺言とするためには、いくつかのルールがあります。内容面で言えば、民法で定める「遺言事項」に該当する事項のみが、法的効力があります。それ以外の事項を書いても、法的効力はないということになります。主な遺言事項は、次のとおりです。
(1)相続に関すること
●推定相続人の廃除(民法第893条)
●推定相続人の廃除の取消し(民法第894条第2項)
●祖先の祭祀を主宰する者の指定(民法第897条第1項)
●相続分の指定、または指定の第三者への委託(民法第902条第1項)
●特別受益の持戻しの免除(民法第903条第3項)
●遺産の分割方法の指定、または指定の第三者への委託(民法第908条第1項)
●遺産の分割の禁止(民法第908条第1項)
●遺産分割の際の担保責任の定め(民法第914条)

(2)遺産の処分に関すること
●包括遺贈および特定遺贈(民法第964条)
●相続財産に属しない権利の遺贈についての別段の意思表示(民法第997条第2項)
●一般財団法人の設立の意思表示(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第152条第2項)
●信託の設定(信託法第3条第2号)
●保険金受取人の変更(保険法第44条第1項、第73条第1項)

(3)身分に関すること
●非嫡出子の認知(民法第781条第2項)
●未成年後見人の指定(民法第839条第1項)
●未成年後見監督人の指定(民法第848条)

(4)遺言執行に関すること
●遺言執行者の指定、または指定の第三者への委託(民法第1006条第1項)

(5)その他
●祭祀主宰者の指定(民法第897条第1項)

付言事項

上記の遺言事項以外を遺言に書いてもそれは法的効力はありません。しかし、法的効力はないものの、相続人に対するメッセージを残したい場合には「付言事項」として書くことが可能です。

付言事項には、例えば、次のようなことが挙げられます。
●遺言の動機や心情
●家族の幸福の祈念
●家族や兄弟姉妹間の融和の依頼

遺言の方式

遺言は、民法で定める方式に従わないと無効になってしまいます。その方式には、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」さらには「特別の方式の遺言」があります。「自筆証書遺言」や「公正証書遺言」がその多くを占めています。

自筆証書遺言は、自分で自書する遺言です。証人は必要ありません。遺言者は、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければなりません。

以前は、自筆証書遺言は、これと一体のものとして相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録についても、自書することが必要でした。いまは、民法改正によって、この目録については、自書する必要はなくなりました。ただ、この場合において、遺言者は、その目録の各ページに署名し、印を押さなければなりません。

手軽に作成できるので、とりあえず早めに作成して安心を確保し、いずれ、公正証書遺言を作成するというのがよいのではないでしょうか。

公正証書遺言は、証人2人以上の立ち会いのもと、遺言者が遺言の趣旨を公証人の前で口述し、それに基づいて、公証人が遺言者の真意を正確に文章にまとめ、遺言者、証人、公証人が署名押印して公正証書として作成する遺言です。費用がある程度かかりますが、一番確実な方法です。

秘密証書遺言は、遺言の内容を秘密にできる遺言です。次に掲げる方式に従わなければならないことになっています。(民法第970条第1項)
①遺言者がその証書に署名し、印を押すこと。
②遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
③遺言者が、公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
④公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。

秘密証書遺言の文書は自書でする必要はなく、パソコンで作成しても、第三者の代筆でも構いません。ただし、署名は自書しなければなりません。この点は、自筆証書遺言に比べて、作成しやすい点で、長所と言えましょう。

しかし、以下のような短所があります。
①内容を公証人がチェックすることはないので、遺言が無効になる可能性がある。
②遺言書自体は自分で保管しなければならいないので、紛失や隠匿の危険がある。
③家庭裁判所における検認手続きが必要である。

このため、上記「自筆証書遺言」や「公正証書遺言」に比べると、利用しづらい方式と言えましょう。実際、この方式で遺言を作成する人は、あまりいません。