遺産分割
相続が開始したときに、相続人が2人以上の場合は共同相続となり、遺産は共有状態になっています。その共有状態を解消するためには、相続人それぞれに遺産を分けて、遺産分割をすることが必要になります。
遺言によって、分割方法が指定されている場合は、それに従って分割することになります。遺言で、この分割方法を第三者に委託することもできます。さらに、遺言で5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることもできます。
遺言がない場合は、共同相続人間の協議によって遺産分割をすることになります。この場合は、共同相続人全員が協議し、合意したのものを「遺産分割協議書」として作成することになります。もし、協議がうまくいかない場合には、相続人は、家庭裁判所に遺産の分割について請求することができます。
【参考】
民法
第906条 遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。第907条 共同相続人は、次条第1項の規定により被相続人が遺言で禁じた場合又は同条第2項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。第908条 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
2 共同相続人は、5年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割をしない旨の契約をすることができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることができない。
3 前項の契約は、5年以内の期間を定めて更新することができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることができない。
4 前条第2項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、5年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることができない。
5 家庭裁判所は、5年以内の期間を定めて前項の期間を更新することができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることができない。
遺産分割協議書の作成
作業の流れとしては、相続人調査(だれが相続人になるのかを調べる)と相続財産調査(不動産、預貯金、株式、車など)をし、相続人が全員参加して遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成することになります。自分たちで作業を進めることもできますが、複雑な場合やもめそうな場合には、専門家に依頼するとよいと思います。
遺産分割協議書の作成には期限はないので、いつ作成してもよいのですが、相続税の申告が、被相続人が死亡したことを知った日から10か月以内に行うことになっているので、そこを意識すると、はやめに作業を進めるのがよいと思います。
(1)相続人となるべき者
法定相続人とは、被相続人が死亡し、相続が開始したときに、相続する権利がある人のことです。配偶者(夫や妻)、そして血族が相続人になります。ただし、血族については優先順位があり、優先順位に従って相続人が決まっていきます。
まず、配偶者については、常に相続人になります。(民法第890条)
配偶者は、婚姻届をしている法律上の婚姻関係にある者でなければなりません。よって、婚姻届をしておらず、婚姻関係にない内縁関係の者には相続権が認められていません。
血族についても相続人になりますが、その優先順位が定められています。
第1順位の人がいない場合は第2順位、第2順位の人がいない場合は第3順位の人が相続人になります。
第1順位 子
子は、第1順位の相続人になります。(民法第887条第1項)実子(特別養子縁組によって、実親との親族関係が終了した実子は除かれる)または養子を問いません。胎児は、すでに生まれているものとみなされて相続できます。ただし、死産した場合は、はじめから相続人でなかったことになります。婚姻関係にない男女の間に生まれた非摘出子(父親の相続の場合は、認知が必要)の場合でも実子と同等の相続権があります。
第1順位の子が被相続人より先に死亡した場合、相続欠格、廃除で相続権を失った場合に、子の直系卑属(被相続人からみて孫、ひ孫など。死亡した人に近い世代が優先される)が相続します。(代襲相続)(民法第887条第2項、第3項)
第2順位 直系尊属(民法第889条第1項第1号)
被相続人に子がない場合(子全員が相続放棄した場合を含む)には、被相続人の直系尊属(父母、祖父母など。死亡した人に近い世代が優先される)(養親がいる場合は養親を含む)が第2順位の相続人になります。
第3順位 兄弟姉妹
被相続人に子がなく、かつ直系尊属がない場合(相続順位の上位の者が全員相続放棄した場合を含む)には、被相続人の兄弟姉妹が第3順位の相続人になります。(民法第889条第1項第2号)
第3順位の兄弟姉妹が被相続人より先に死亡した場合、相続欠格、廃除で相続権を失った場合に、兄弟姉妹の子一代に限り(被相続人からみて甥や姪)が相続します。(代襲相続)(民法第889条第2項)
(2)相続人の調査
遺産分割講義をするためには、すべての相続人となるべき者が遺産分割に参加させなければなりません。1人でも欠けると成立しないので、戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍等を入手して、相続人を調べることになります。相続人の住所についても、戸籍の附票や住民票を取り寄せることで把握します。
(3)遺産分割の対象となる相続財産
相続が開始すると、亡くなった人の財産はすべて、相続人が引き継ぎます。例えば、土地、建物、株式や公社債などの有価証券、預貯金、現金、自動車などが挙げられます。しかし、相続財産にならないものもあります。それは、以下のようなものです。
●一身専属権
亡くなった人の一身に専属した権利や義務については、相続人に継承することができません。例えば、生活保護受給権、公営住宅使用権などがあります。
●祭祀財産
系譜、祭具、墳墓については、基本的に、慣習によって祖先の祭祀を行う人が継承することになります。
●死亡退職金
死亡退職金は、相続財産ではなく、受給権者の自己固有の権利として取得するものとされています。
●生命保険金
生命保険金は、原則として、相続財産にはなりません。
(4)相続財産の調査
●不動産
不動産の登記事項証明書、固定資産税納税通知書などを取得し、被相続人名義の不動産の有無を調査します。登記事項証明書は法務局で入手できます。固定資産税納税通知書は、市役所等から送られてきます。
●預貯金
被相続人名義の預貯金通帳などから確認します。通帳の記帳も行い、最新の取引まで確認します。預貯金の残高証明書で確認することもできます。必要に応じて、取引明細書も取得します。
●その他
有価証券(国債、社債、株式等)、動産(貸金庫内にある場合もあるので注意)、負債(契約書などで確認)など、きめ細かく調査します。
(5)遺産の評価
調べ上げた遺産について、それぞれどのくらいの価値があるのかを評価することは、相続人間の公平さを確保する上で重要となってきます。ところで、どこまでより正確に評価するのかという問題があります。それを求めるとなると、専門家に依頼することになります。
しかし、専門家に頼むとある程度の費用や時間がかかるので、遺産額や相続人間の関係にもよりますが、お互いにだいたいの評価額でよいと納得して、遺産分割をするということも十分にあり得ます。
●不動産
不動産については、固定資産税評価額、相続税評価額、地価公示価格などによって評価できます。固定資産税評価額で評価する場合、「固定資産納税通知書」に書いてあるので、すぐに確認できます。
相続税評価額で評価する場合、土地については、一般的に、路線価方式や倍率方式によって計算していくことになります。建物については、一般的に、固定資産税評価額と同じ数字となります。評価額について、当事者間に争いがあるような場合には、不動産鑑定を行うことになります。
●株式
上場株式は、遺産分割時に近い時点での取引価格などによって算出します。非上場株式の場合は、専門的な知識がないと評価は難しいので税理士等による専門的評価が必要となってきます。
(6)法定相続分
遺産分割協議における相続の方法は、相続人間の合意によって自由に決めることができるので、下記の相続分にしばられることはありません。
しかし、法定相続分としてどの程度の割合の相続を受けることができるのかを把握したうえで協議を進めることが、公平な分配という観点からは望ましいと考えられます。法定相続分は、具体的には次のようになります。
①配偶者と子とが相続人となる場合
配偶者と子の法定相続分は、それぞれ2分の1です。子が複数いる場合には、各子の法定相続分は相等しいものとされます。代襲相続人の法定相続分は、代襲相続人の親の法定相続分と同じになります。
②配偶者と直系尊属(父母など)が相続人となる場合
配偶者の法定相続分は3分の2で、直系尊属の法定相続分は3分の1です。直系尊属が複数いるときは、各人の法定相続分は相等しいものとされます。
③配偶者と直系尊属(父母など)が相続人となる場合
配偶者の法定相続分は3分の2で、直系尊属の法定相続分は3分の1です。直系尊属が複数いるときは、各人の法定相続分は相等しいものとされます。
④配偶者と兄弟姉妹が相続人となる場合
配偶者の法定相続分は4分の3で、兄弟姉妹の法定相続分は4分の1です。兄弟姉妹が複数いるときは、その法定相続分は相等しいものとされますが、この中に父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹があるときは、その法定相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の2分の1となります。すなわち、半血の兄弟姉妹の相続分は、全血の兄弟姉妹の半分ということになります。
(7)特別受益
共同相続人の中の一部の人が、生前に、被相続人から贈与を受けている場合があります。例えば、長男が家を建てるのでその資金援助をした場合が考えられます。そうすると、被相続人が残した財産は少なくなってしまい、そのまま相続人間で分けると不公平になってしまいます。
そこで、長男に資金援助した額を特別受益として加えて(「持戻し」)、それを含めて相続財産とみなして、相続分を計算することになります。
特別受益の範囲
特別受益として持戻しの対象となる財産は、次の3つです。
①遺贈
遺贈はすべて持戻しの対象となります。
②婚姻、養子縁組のための贈与
持参金、嫁入り道具、支度金等の費用がこれに当たりますが、通常の挙式費用についてはこれに含まれないと考えられます。
③生計の資本としての贈与
住宅を購入するための資金贈与、事業を始めるための開業資金の贈与、他の相続人と比較してかなり高額な教育費用の援助など、生計の基礎として役立つような贈与はこれに含まれます。
●生命保険金や死亡退職金は、被相続人の財産ではなく、受取人固有の財産であると考えられるため、遺産には含まれないのが原則です。ただし、著しい不公平があるときには、例外として持戻しの対象となることもあり得ます。
持戻し免除
ただし、被相続人が特別受益に関して、持戻し免除の意思表示をすれば、持戻しは不要となります。また、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が、他の一方に対して、居住用の不動産の遺贈や贈与をしたときは、持戻し免除の意思表示があったものと推定されます。
(8)特別受益を考慮した遺産分割の計算
相続財産に、特別受益となる生前贈与等を加えたものを、「みなし相続財産」として、これをもとに遺産分割の計算をします。
例えば、法定相続分で分割することを前提とした場合で、相続財産が1億円、共同相続人は妻、長男、次男とします。そのうち長男へ2000万円の生前贈与があったとします。
みなし相続財産は、 1億円+2000万円=1億2000万円
妻の相続分は、1億2000万円×1/2=6000万円
長男の相続分は、1億2000万円×1/4-2000万円=1000万円(長男は、すでに2000万円の贈与があったので、その分が引かれる。)
次男の相続分は、1億2000万円×1/4=3000万円
となります。